「エビングハウスの忘却曲線」に関する情報が世に蔓延っているので、ここで一度まとめます。
「エビングハウスの忘却曲線」がすべての暗記事項に対して忠実に成り立つと思っている人は間違いですので、是非とも一読していただければなと思います。

「エビングハウスの忘却曲線」は、人間の記憶について完全に解き明かしたものではないよ。
「エビングハウスの忘却曲線」とは何か?
そもそも「エビングハウスの忘却曲線」とは何であるのかを知らない人がいるかもしれないので、それについて簡潔に触れようと思います。すでにご存知の方は飛ばしてもらっても構いません。
「エビングハウスの忘却曲線」とは端的にいえば「人間の忘れる」割合をグラフにしたものです。

あなただって一昨日のお昼ご飯をすぐには思い出せないはず。私たち人間は必ず「忘れ」ます。
この「忘れる」特性を研究したのがドイツの心理学者「ヘルマン・エビングハウス」という人物。
彼が実際にグラフ化したものが以下のグラフです。「エビングハウスの忘却曲線」と呼ばれ、暗記物の勉強をしているときに、このグラフに沿って復習を行いなさい。などといったことをよく言われるわけです。

グラフを簡単に説明します。
まず、0日目に100%になったある知識があります。これは復習をしなければ6日目にはほぼ0%となり、覚えていないです。しかし、それまでの日に復習として再度暗記を行うことで、曲線のカーブが緩くなり、忘れにくくなる様を示すことに成功したグラフとなっています。
だから私たちは復習をするように促されがちだということです。
「エビングハウスの忘却曲線」の落とし穴
エビングハウスの忘却曲線には落とし穴がいくつかあります。
まずこの実験は1880年ごろに行われました。しかも1人の人物によって行われたものです。
根本的に、すべての人に当てはまるものであるかどうかはこの実験からはわからないということを意味します。具体例の一つでしかないのです。
「実験方法」はどのようなものだったのか?
この実験は人間が純粋な「丸暗記」を行う際にどれほど忘れるかを実験したものです。
例えばappleという単語を今から覚えてくださいと言われても、すでにこの単語を知っている人がいれば忘れるにも忘れられないわけです。
そんなこんなで、関連付けがなされないように、この実験で記憶させられた単語はランダムな子音と母音の組み合わせで構成された「ZAK」「BOK」「YOT」のような意味の持たない単語が用いられました。

何が言いたいかというと、学校などでの学びは、基本的に関連付けが可能だから、その意味で、勉強のやり方次第で、このエビングハウスの忘却曲線よりも忘れにくくできるということだ。
関連付けによる記憶なども一切禁じた純粋な記憶力を図ることが目的です。
どのようにグラフは作成されたか
実際の実験手順についてですが、ランダムに用意した2300程度の単語をランダムに並べ、それらを注意深く何度も読み、その後に完璧に再現できる時点までに持っていきます。
この時点で、先ほどのグラフでいう、0日目の100%の状態となります。
その後に時間を空けて、ふたたび単語の暗記を行います。この時点で0日目のときと比べ、完璧に再現できる状態になるまでに暗記する時間がどれほど短縮されるかを計測します。
これがどのようにグラフ化されていくのかということですが、これを具体例を用いて説明します。
例えば、初日(0日目)に100%の状態にまで持っていくのに60分かかったとします。
そして翌日(1日目)に100%の状態まで持っていくのに50分要したとします。
この状況について考えますが、例えば2日目に記憶に60分かかっていたらどうでしょうか?
この状態は0日目の「何も単語を知らない状態」→「100%」にするためにかかった時間と変化がないので、であれば2日目も勉強をし始める直前の記憶保持率は0%だったと推測でき、1日目には0%とプロットされます。
逆に現実的ではありませんが、0分ですべて覚えられた、つまり、すでになにも見ずともすべての単語を再現できる状態であったのであれば、記憶保持率は100%であったといえるわけです。
これを数式的に書けば以下のようになります。
$$
\text{savings(節約率)} = \frac{\text{初回学習時間} – \text{再学習時間}}{\text{初回学習時間}}
$$
これを1日目には50分暗記するのに要したといった具体例を用いて計算すれば、
$$
\frac{60 – 50}{60} = \frac{10}{60} = 0.1667
$$
と計算できるため、1日目の記憶保持率は16%~17%の部分に記録されるわけです。

「覚えているか」「覚えていないか」を測ったものではないということだ。
つまりどういうことか?
この計測でのポイントは、「エビングハウスの忘却曲線」の実験では、「「覚えているか」「覚えていないか」を測ったもの」ではなく、「すべてを覚え直す」のにどれだけの時間がかかるか?を計測したものである、という点です。
グラフだけを見れば、いかにも忘れていくカーブのような印象を受けてしまいますが、あくまで、「記憶にかかった時間ベース」のグラフであったということには注意が必要でしょう。
この実験の「強み」と「弱み」
この実験から得られる情報には、その特性上、「強み」となる点と、「弱み」となる点があります。
「強み」
この実験では、完全にランダムな単語群の記憶を計測したものです。
これはいわば、「暗記テクニック」といった武器が完全になかった時の、人間の持ちうる純粋な記憶能力を計測していると捉えることが出来ます。
これがこの実験で得られた一番の果実ではないでしょうか。
「弱み」
私たちは普段の学習の中で、このような「丸暗記」を行わされる場面は限られます。なぜならそのような覚え方よりも効率よく覚えることが出来る方法が世の中に知れ渡っているからです。
例えば「関連付け」などです。私たちは全く新しい知らなかったものを記憶するよりも既存の知識に関連付けて記憶することを基本的に得意とします。

行ったこともないような場所について覚えるよりも、自分が旅行などで実際に行った場所について思い出せと言われる方がよっぽど簡単でしょう。
その意味で、このグラフの保持率のタイミングに完全に沿って記憶の復習を行うという勉強方法は、一般的にかなり非効率になる場合があるということです。
まとめ
非常に広く、「記憶に関する実験」として知られる「エビングハウスの忘却曲線」ですが、これが私たちの学業や勉強における「記憶」のやり方とは必ずしも一致しないということを頭に入れておいた方がいいでしょう。


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